What's in New York

WTC再建デザイン、ダニエル・リーベスキンド・スタジオに決定:

再建資金は保険金の6。7ビリオンドル

Hiroko Sueyoshi Planners, New York


2月27日、WTC再建デザインコンペの最終結果が発表された。 選ばれたのはWTCビル建設の際に建てられたバスタブと呼ばれるハドソン河の水をせき止める巨大な壁を残しメモリアルとするダニエル・リーバースキンドのプロポーザルで、それには世界一の高さとなる1776フィート、およそ541メートルのスパイラルビルが含まれている。

昨年の6月から国際コンペに発展し、先月坂茂氏を含む国際デザインチームTHINKの提案するWTCビルの敷地の上に建つ格子構造のツインタワー、“ワールド・カルチャラル・センター ”との2案に絞られ、最終的に9。11のアタックに耐え、その周辺から2800人にもおよんだ犠牲者の遺体が最も発見されたそのバスタブを残すというメモリアルを中心としたリバースキンドのデザインに決定した。昨年末各デザインが発表された当時からこのルーバスキンドの案は犠牲者の遺族や一般の指示を受けるフロントランナーであった。 11ヶ月に及んだ複雑極まる再建デザイン決定プロセスは、このメモリアルと商業部分のストリートライフの充実というバランスを計るリーバースキンドの計画によって、WTC跡地のサイトプランが正式に決定されたことになり、WTC再建プロジェクトは新しい一歩を踏み出したことになる。

同日11時、グランドゼロに隣接するワールド・ファイナンシャル・センターのウインターガーデンで開催されたこの正式発表には決定を行った関係者一同が集まった。LMDC(ローワー・マンハッタン・デヴェロップメント・コーポレーション、ポートオソリティー・ニューヨーク&ニュージャージー港湾局)他、各代表関係者、NY州知事ジョージ・パタキ、NY市長 マイケル・R・ブルンバーグが次ぐ次にスピーチを行いリーベスキンドが挨拶し決定案となったその計画のスライドプレゼンテーションを行った。パタキ州知事は9。11のアタックによる犠牲者へのメモリアルを、ブルンバーグ市長はストリートライフの活性を強調した。一説によるとこの二人がリーベスキンドの案を強く指示したことで最終決定がTHINKからリーベスキンドに一転したとも言われている。が、最終決定の前に2組の建築家を相手にデザインの修正を打診、建設費800ミリオンを計上したTHINKの1階レベルの修正案が指示されず、市当局は特に一貫してWTCを中心とするダウンタウンのストリートの活性化を主張しリーバスキンドの案を推したたとされている。パタキ州知事は、崩壊したWTC ビルの建っていた敷地には何も建てて欲しく無いと迫る犠牲者の遺族の声に従い、犠牲者への追悼をこの再建の柱として考え当初からリーベスキンドの案を指示していた。

一報、リーベスキンドは敵のアタックに耐えて建っているそのバスタブの壁を民主主義の土台と主張した。燃え続ける巨大なツインタワーの瓦礫の中に埋もれた犠牲者の救出は水、セメント、コンクリートのスラリー壁で造られているこのバスタブをいかい傷つけることなく実行するかが大きな課題となっていた。当初のその壁を70フィートおよそ25メートルにもおよぶ深い穴を掘ってメモリアルとする案ははこの日の正式発表時のスライドプレゼンテーションでは30フィートと修正されていたが、それでもこのバスタブをメモリアルをする案に多くが簡明を受けた。

LMDC(ローワー・マンハッタン・デヴェロップメント・コーポレーション)は9。11の惨事の直後、WTC跡地およびその周辺の開発の為にNY州知事ジョージ・パタキと当時のNY市長ルドルフ・ジュリアーニによって開設された、このサイトプランの決定によってLMDCの大役はまず果たされたことになる。

しかし、課題は多く残されている。今回のリーベスキンドの案採用決定に伴い崩壊したツインタワーの建っていた場所を囲む敷地船体の南西がメモリアルになることは確定した。しかし今後リーベスキンドの提案に含まれている10ミリオンスクエアフィーと(およそ百万平米)のオフィススペースを確保する1776フィートのタワーやその周辺の文化的施設の建物のデザインがどれ程実現さるかは大きな課題となっている。また、WTCの敷地の保有者はポートオソリティー(港湾局)であり、地下に特に観光バスを対象にしたバスターミナルを設置したいとしているが、犠牲者の遺族はこれに反対で、この跡地を占めるコマーシャルスペースのボリュームと共に大きな課題としている。 NYタイムス紙の建築評論家、 ハーバート・ムーシャンは昨年試行錯誤するこの再建デザインの仕切りに関して、“もし、WTC崩壊前のオフィススペース以上のボリュームが再建されるならば我々はこの9。11の惨事から学んだことは何もない”と報じている。

一報、WTC、ツインタワーのリースを保有するのは、9。11の6週間前に99年間の3。2ビリオンのリース契約をしたと言うデベロッパー、Larry A. Sirberstein (ラリー・A・シルバーステイン)で、このデベロッパーがWTCの再建の権利を持っており、事実上再建はこのデベロッパーにかかっている。再建に関しては10ミリオンスクエアフィートのオフィススペースの確保を要求したと言われている。

メモリアル自体のデザインもリーベスキンドのプランに基づきコンペとなると発表され、すでにリーベスキンドもそのコンペの為の準備に入っているという。スラリーウオールのバスタブをメモリアルとして安全に補修する課題もある。メモリアルのデザインの最終的な発表は9。11が2周年を迎える直前とされている。そのメモリアルの建設費がどこから捻出されるのか明らかにされていない。        

また、シルバーステインのパートナーであるWestfield America (ウエストフィール・ドアメリカ)が、全米一の集客を持つWTCのコンコース・モールのリースを所有している。このモールにはビジネスおよび観光を目的とする5万人が毎日訪れると言う。ツインタワーのリースと共にシルバーステインとウエストフィールド合わせては10ミリオン(12億円)のリース代を毎月支払っているという。再建にあたってウエストフィールドは地下に90万スクエアフィート(9万平米)のモール建設の権利があると主張したとされる。これは崩壊前の2倍の広さにあたり、地下にバスターミナルを建設したいとするポートオソリティーとストリートレベルの活性化を重要視する市当局の思惑の中でいかに発展していくのか、今後ポートオソリティーがこの再建計画に関してどのような権限を持つのかは明確ではない。

現在の景気状態から今後NYのダウンタウンに百万平米のオフィススペースの需要があるのか等の疑問は尽きない。この2月27日はWTCの再建がNYの報道のトピックを占めていたが、これらの疑問に積極的に迫る非常に興味深いインタビューが企画された。これは世界中の政界、財界、文化人、知識人を対象にしたNYのパブリックテレビジョンのインタビュー専門の番組でこの日、このデベロッパー、シルバーステインの30分におよぶインタビューが収録されオンエアーされたのだ。

その内容をまとめてみると、シルバーステインはリーバスキンドの案を指示しサイトプランも認めている。THINKの案と比べより高率良く機能すると見て、特にメモリアルの穴の深さを70フィートから30フィートへ変更させ、バスタブも南西のみに制限するなどのリーバスキンドの修正案も評価した。オフィススペース10ミリオンスクエアフィートの確保も可能である。 WTCを中心としてダウンタウンの活性化に有効と考えられるリーベスキンドの道路計画もそのまま適用させると言う。


これからまず最初にWTCの土台となる地下のマス・トランジットから着工し、2006年にはオフィスタワーの建築着工を計画している。

再建資金は9。11の保険金6。7ビリオンドルが予定されている。保険会社との訴訟でツインタワーの崩壊を2度の事件と捉えることで、この金額確保を可能とさせるとし、この保険金6。7ビリオンドルはWTC再建にかかる費用であり、メモリアル建設費も連邦政府の資金援助を計画しデベロッパーの彼等が中心に確保することなると言う。年間、120ミリオンドル(150億円)のリース代を確保するには10ミリオンスクエアフィートのオフィススペースが必要となる。では、今の経済状態からその需要が見込めるかの質問に対して、過去10年間を観察し、それが可能と見ていると答えた。1990年代前半はリセッションで1996年辺りまで苦境が続き、NYのオフィスススペースは48ミリオンスクエアフィートまでだぶついたという。それが1997年から98年にかけて、急速に需要が上がり、9。11の前は殆ど空きのない状態となった。このサイクルは繰り返しやってくるもので10年間で48ミリオンスクエアが埋まったこの歴史的事実に対して10ミリオンスクエアフィートを今後10年間でリースすることは困難ではないという見方をしているという。 WTCが再建されれば観光客の為のバスターミナルは必要だとしてポートオーソリティーの望んでいる場所ではないにしてもその代替えの場所での確保は考えている。

インタビューワーは更にこのデベロッパーの建築家として起用されているSOM(Skidmore, Owings and Merrill)を差し、タワーがSOMのデザインになって建つ可能性に触れた。すでにナンバー7という一部のビルの建設がSOMによって進んでいる。リーバースキンドは公共建築に優れているがオフィスタワーの設計のスペシャリストではない、オフィススペースはリース可能な、賃貸収益が得られるものでなければならない、フロアごとの空間的関係が重要で、今後SOMと共に計画は進むことになり、リバースキンドは WTC再建の為の我々、シルバーステインの建築家となった、今後リバースキンドそしてSOMを始めとするシルバーステインの若い建築家グループと共に再建計画を進めたいと述べた。

(2003年2月)

2003-2

◆Back Numbers

2003年 2月 SOHOのメインストリートにオープンした アップルストア
2002年 9月 MODUS Design
2002年 8月 MoMA Queens
2002年 7月 Skin
2002年 6月 ICFF 2002 インターナショナル・コンテンポラリー・ファニチャー・フェア
2002年 5月 マテリアルセンター・リソース・センター ROBIN REIGI ART & OBJECTS
2002年 4月 アメリカ初のニューメディア・アート・ミュージアム “EYEBEAM”
2002年 3月 『I want to change the world』
2002年 2月 「PRADA SOHO」オープン