What's in New York

SOHOのメインストリートにオープンしたアップルストア

Hiroko Sueyoshi Planners, New York

SOHOのど真ん中、プリンス・ストリートとグリーンストリートの角にアップルストアがオープンした。NYタイムス紙の建築評論家 は、「ミニマリスティックなフォルムとナチュラルな色調はアップル製品が今日のモダンクラシックであることを物語っている。」としている。 この敷地は元郵便局。その後2〜3年家庭用品のショップが改造工事を行い、テナント営業していたが、1年と持たずにクローズ。デパート離れが著しい若者の街SOHOには、やや趣向が合わなかったようだ。

そして現れたのが、アップルストア。さすが、若者のハートを捉えている世界一流企業、ほとんどの顧客が若者の会社にとって、顧客のニーズを逸早く入手するアンテナショップとしても、また新製品のエデュケーショナル要素も狙えるマーケティングの場としても、大企業のオフィスがまったく存在しないこのSOHOに目をつけるその斬新さはさすがである。その意味ではSOHO以外マンハッタンにこれほど適切な場所もない。

空間デザインを担当したのはPeter BohinとNYの女流建築家Ronnette Riely 、エンパイアステートビルの最上階のオフィスを借りている男性のパートナーを持たない数少ない女性の建築家の一人で5番街のミッドタウンのコカ・コーラのショップをデザインして一躍注目を浴びた。この二人のデザインを指揮したのはパーソナルコンピューター開発のスターアップルの会長スティーブ・ジョブズ。今年7月18日にオープンしたこのSOHO第1号店からその後全米に32店を展開する。 NYタイムス紙にモダンクラシックデザインと呼ばせた理由は、白の壁、マットなメタルのトリム、大きなカッティングボードのようなテーブル、透明のルーサイトディスプレイカウンター、1階の床はクールなグレイのスレート仕上げ。このストアに見られる建築デザイン・ボキャブラリーは、アップルが奇抜なデザインと捉えられがちだったその領域から脱して、アップル社の製品をバウハスのアーキタイプのレベルまで引き上げると言われているのだ。

確かにアップルのファンキーな要素はこのショップのデザインには見られず、どちらかというとオーソドックスな正統派モダンだ。 IBMの優等生的な感じのデザインに対して、もっと多形態で型破りというのがアップルのイメージとされるが、キャンディーのような色、はまぐりのような形、官能的なカーブなど、アップル社は往々にしてインダストリアル志向と言うよりむしろエレクトロニクス的刺激を狙っていたと言われている。 ショップの1階フロアーはワイドなガラスの階段を軸にシンメトリカルにアレンジされ、2階の大きく開けられたスカイライトに通じている。その両サイドには大きなブロックのデスクが置かれ、ナチュラルライトが滝のように流れ落ちる効果を狙い、入った瞬間、柔らかに包み込まれるような第一印象を与えるものだ。ハイテクを快適に、自然にブレンドさせるような美さを狙ったようだ。

カウンターのスペースはゆったりと取られ、同じモデルがいくつも置いてあるので買い物客はゆったりとした感覚でショッピングができる。無論、お店のヘルプも受けられるが決して押し売り的なものでは一切ない。この点はアメリカは日本のセールスの教育とは異なるところで、アメリカの場合、まるで学校の先輩か、良く理解している者が疑問を持つ人間に単にそれもまったく面倒がらずに、説明すると言った関係が自然と徹底していて、日本のような客と売り手の感覚は一切感じさせないのが特徴である。

東京フォーラムをデザインした建築家のラファエル・ビニョリは現代のエレクトロニクス製品のデザイナーは機能の面白さを再発見してきていると述べたと言う。アップルはこのストアでその発見を買い物への機能へと更に発展させたようだ。 ゆったりとしていて明るく買い物のせせこましさなど、一切感じさせることがなく、どちらかというとライブラリー的雰囲気だ。その点、階段が空間がゆっくり進む時間的余裕を感じさせる効果がある。

黒いフォームで出来た大きなボールのシートのある子供の為のエリアもあり、小洒落れたサービスカウンターなど、アップルのイメージより全体のショップインテリアは随分おとなしいデザインとなっているものの、アップルのこのSOHOのストアが果たす役目はかなりの反響には違いない。

(2002年10月)

2002-10

◆Back Numbers

2002年 9月 MODUS Design
2002年 8月 MoMA Queens
2002年 7月 Skin
2002年 6月 ICFF 2002 インターナショナル・コンテンポラリー・ファニチャー・フェア
2002年 5月 マテリアルセンター・リソース・センター ROBIN REIGI ART & OBJECTS
2002年 4月 アメリカ初のニューメディア・アート・ミュージアム “EYEBEAM”
2002年 3月 『I want to change the world』
2002年 2月 「PRADA SOHO」オープン